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■文学

■鶴見線と京浜工業地帯(2)

当日の天気予報は曇りのち晴れであり、空は、鶴見に着く頃には海岸沿い特有の霞のかかった水色の青空となっていた。それに対して街の色がどことなく赤色なのは、塩害でところどころ建物が錆びているからだと推察できた。そういえば鶴見と言わず、東海道線沿線は同じような色の印象がある。ガード脇に並ぶバラックの呑み屋に葺かれた、錆びたトタン屋根の印象だ。

4両という短い編成の車体に少ない人数の乗客を乗せ、鶴見線の海芝浦行きは期待外れなほどあっさり発車した。しばらくは高架の上から重なり合う線路の川の複雑なうねりを眺めた。レールから反射する太陽の光は、列車がつねに走る中央部分から柔らかく発せられていた。

黄色と水色のラインを持つ列車は、緩やかに海側にカーブを切り、線路を渡りきったところでマンションや住宅の中へ突入していった。発車してから1?2分。旅が始まったという気持ちがまだ芽生えない内に、最初の駅が見えてきた。大きいが華奢な鉄骨のアーチを持って、背景に水色の空を背負いながら、午前中のグレープフルーツのような日光を浴びた国道駅だ。

国道駅はかつてないほど強烈な印象の駅だった。明るいホームから高架下まで伸びる階段は恐ろしく長く見えた。そしてその地表は夜のように青暗く、街灯が点っているようだった。階段を3分目ほど降りると、反対側のホームへ渡る橋があった。人がすれ違うのがやっとくらいのその通路から、国道駅の全貌が露になった。なるほどこれはすごい、そう思った。

改札口にはSuicaの簡易装置がある一方、昔の改札枠も残っていた。無人駅であることを知っていたが、私はホリデーパスを握りながら通り過ぎた。右側へ歩くと直ぐに出口で、明るい昼前の国道を、家族を乗せたたくさんの車が行き交っていた。そしてそこから振り返ると、闇のような国道駅構内が口を開けていた。

どの店舗も閉店して何年、何十年も経っているようだった。ただ一軒だけ、貸し船屋の看板が新しかった。固く閉じられた窓からは、向う側の明かりが青白くなって差し込んでいた。

■鶴見線と京浜工業地帯(1)

会社の寮があった大田区蒲田に住んでいたころ、毎週末、とある画家の先生のアトリエに遊びに行く機会があった。アトリエは、JR京浜東北線鶴見駅の北口の、寺尾西という閑静かつ迷路のごとく入り組んだ住宅街の中にあった。私にとって鶴見は、それまで何の縁もゆかりも無い土地だったのだが、そんなこんなで若干の土地勘を持つことと相成った。

当時から、鶴見駅は「JR鶴見線」という奇妙な電車の始発駅であることを意識をしていた。私の勝手な認識では、ターミナル駅というのは単なる停車駅と比べて少なからず華やかで人通りもあり、知名度も高いはずだったが、鶴見駅はどうにも垢抜けない雰囲気で、失礼ながら澱んだ空気あったと記憶してる。

しかしもちろん、私自身そんな路線に用事は無いので、鶴見線のことはスルーしっぱなしだった。当たり前といえば当たり前だ。

ただ、同線に「国道」という駅名があることを、JRの路線図を見た時に気づいてから、がぜん興味が湧いたことを覚えてる。何というか、主客逆転、攻守交替のような、ちぐはぐな印象を抱いたのだ。つまり、バス停の名前が??駅前となることはあっても、駅名が??バス停前となる例はあまり無い。そこには継続性の長短に依拠した主従関係があって、駅名に道路名が付くことは珍しいという法則があるはずなのだ。ところが、この国道という駅名はその法則を無視しているように思えたからだ。もちろん、世の中にはそういった事例が無いわけではないだろうが、あまりお目にかからない。そこで、いったいどんな駅なのだろうかと興味が湧いたのだ。さらに、鶴見線はいくつかの支線を持っていて、路線図を見る限り奇怪だ。恐らく工場地帯を走っていて、そこに従事する労働者の人たちを運んでいることまでは推察でる。そういった中で、この支線にはどんな意味があるのかということも気になった。

さて、そんな時期から随分たった先週。たまたま私の住む町田から川崎駅まで通う機会があった。横浜線から東神奈川駅へ出て、京浜東北線で川崎まで行くルートだ。そこで、久しぶりに鶴見駅にお目にかかった。懐かしさもあったが、季節も良くなったし、長年のモヤモヤを払拭しようという気がもたげてきた。

鶴見線とは一体どんな路線なのか、国道駅とはどんな駅なのか、そして臨海工業地帯の風景はどういったものか。そこでこの週末に出かけることにしたわけだ。

つづく

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永瀬宗彦 - Nagase Munehiko

Author:永瀬宗彦 - Nagase Munehiko

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