■ふうせん 第一部
経緯
私の作品に"message"というシリーズのイラストがあります。私には珍しいポップな作風で第1作から第6作まであります。第1作は、もともとは所属していた美術サークルの情宣用のハガキの絵柄でした。とても印象的なその構図は、外から差し込む白い日差しや、蛍光灯の光などが交錯している中から、ふと思い付きました。
翌年、そのデザインを書き直し、大学祭のポスターデザインのコンペティションに応募しました。もともと応募点数の少ないコンペティションなので、あっさり採用されました。
その時のポスターが、あとからガラス吹きの故 大野貢先生の目にとまりました。大野先生との出会いは、私が画業を続けるキッカケになりましたから、私にとってこの"message"は記念碑的な絵になりました。
このシリーズにはストーリーがあります。でも本文もセリフもありません。私は悪文家なので文章を添えるよりも、ぜんぶ絵にした方がいいと思っているからです。しかし、そうは言っても絵だけでうまくいくという自信もありません。2013年に人前に展示する機会を得ましたので、この際だから説明を書こうと思いました。
おおかた次のような筋書きです。
(今後大幅に改訂する可能性があります)
***********************************
ふうせん 第一部
小さい子が持っていた赤い風船が空へ飛んでいった。図■
それを見た通りすがりの人が風船を取り戻そうとした。図■
彼は腕をばたつかせて空を飛んだ。図■
彼はずっと高い空まで飛んでいった。
そして彼は赤い風船を一旦はつかんだ。図■
しかし彼は強くつかみすぎていた。
風船は「パン」と破裂した。図■
赤い風船のかけらは四分五裂して四方八方へ飛び散った。
彼は風船のかけらといっしょに地面に墜落した。
***
最初に風船を持っていた小さい子はもういなくなっていた。
だけど彼はふうせんを割ってしまったことを謝りたかった。
彼はお墓を立てて風船のかけらを埋葬した。
毎日そのお墓に水をかけていた。
春になってお墓の土から若芽が出てきた。
彼は嬉しくなってその若芽を大事に育てた。
若芽から赤いつぼみが出来た。
それは割れた風船と同じような赤色だった。
彼は赤い花が咲くことを楽しみにしていた。
ある日、赤いつぼみは無くなっていた。
彼はガッカリした。
そしてこう考えた。
「きっと赤いつぼみがふくらんで、赤い風船になって飛んでいったんだ。」
そう思って空を見上げたけれど、風船はもう空のどこにも見えなかった。
彼はそれでも追いかけた。
めくら滅法に行ったり来たり、上ったり下がったり、うら返したり、もとに戻したり。
ずいぶん長い間さがしていたけれど見つからなかった。
彼はさがし続けた。
あんまり長いあいだ飛び続けていたから、彼はそのうち鳥になって人間の心を失ってしまった。
赤いお花が大好きな鳥になって、春になるとうるさいくらいに囀った。
第一部おわり。
私の作品に"message"というシリーズのイラストがあります。私には珍しいポップな作風で第1作から第6作まであります。第1作は、もともとは所属していた美術サークルの情宣用のハガキの絵柄でした。とても印象的なその構図は、外から差し込む白い日差しや、蛍光灯の光などが交錯している中から、ふと思い付きました。
翌年、そのデザインを書き直し、大学祭のポスターデザインのコンペティションに応募しました。もともと応募点数の少ないコンペティションなので、あっさり採用されました。
その時のポスターが、あとからガラス吹きの故 大野貢先生の目にとまりました。大野先生との出会いは、私が画業を続けるキッカケになりましたから、私にとってこの"message"は記念碑的な絵になりました。
このシリーズにはストーリーがあります。でも本文もセリフもありません。私は悪文家なので文章を添えるよりも、ぜんぶ絵にした方がいいと思っているからです。しかし、そうは言っても絵だけでうまくいくという自信もありません。2013年に人前に展示する機会を得ましたので、この際だから説明を書こうと思いました。
おおかた次のような筋書きです。
(今後大幅に改訂する可能性があります)
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ふうせん 第一部
小さい子が持っていた赤い風船が空へ飛んでいった。図■
それを見た通りすがりの人が風船を取り戻そうとした。図■
彼は腕をばたつかせて空を飛んだ。図■
彼はずっと高い空まで飛んでいった。
そして彼は赤い風船を一旦はつかんだ。図■
しかし彼は強くつかみすぎていた。
風船は「パン」と破裂した。図■
赤い風船のかけらは四分五裂して四方八方へ飛び散った。
彼は風船のかけらといっしょに地面に墜落した。
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最初に風船を持っていた小さい子はもういなくなっていた。
だけど彼はふうせんを割ってしまったことを謝りたかった。
彼はお墓を立てて風船のかけらを埋葬した。
毎日そのお墓に水をかけていた。
春になってお墓の土から若芽が出てきた。
彼は嬉しくなってその若芽を大事に育てた。
若芽から赤いつぼみが出来た。
それは割れた風船と同じような赤色だった。
彼は赤い花が咲くことを楽しみにしていた。
ある日、赤いつぼみは無くなっていた。
彼はガッカリした。
そしてこう考えた。
「きっと赤いつぼみがふくらんで、赤い風船になって飛んでいったんだ。」
そう思って空を見上げたけれど、風船はもう空のどこにも見えなかった。
彼はそれでも追いかけた。
めくら滅法に行ったり来たり、上ったり下がったり、うら返したり、もとに戻したり。
ずいぶん長い間さがしていたけれど見つからなかった。
彼はさがし続けた。
あんまり長いあいだ飛び続けていたから、彼はそのうち鳥になって人間の心を失ってしまった。
赤いお花が大好きな鳥になって、春になるとうるさいくらいに囀った。
第一部おわり。