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■メモ:「スロー地震による巨大地震発生予測の可能性」

東京大学地震研究所副所長・小原一成教授


感じない地震

 最近見つかった「スロー地震」という現象が、巨大地震の発生と何らかの関係があることがわかってきている。

 スロー地震を観測することで、巨大地震の発生や切迫度の予測に応用できる可能性がある。

20130913-730491-1-L.jpg図1=「防災科学技術研究所のホームページより」

 まず地震の起こるメカニズムだが、日本列島の下に沈み込む太平洋プレートやフィリピン海プレートは、沈み込む際に陸のプレートを引きずり込もうとする。陸のプレートにひずみがたまり、限界に達した時に海のプレートとの固着が外れて元に戻ろうとする動きが地震だ(図1)。

 海のプレートと陸のプレートの固着は一様ではなく、固着が強い部分は、沈み込みにともなう引きずり込みの力が大きくなる。この場所をアスペリティ(固着域)と呼んでいる。固着域はゆっくりと定常的に滑っている領域に囲まれているため、固着域に力が集中し、地震が繰り返し発生するという考え方が提唱されてきた。

 プレート境界では、固着域と定常的に滑っている領域のほか、この二つの領域の中間的な動きをしている場所がある。そこで起きているのがスロー地震で、定常滑りよりは速いが、通常の地震よりは滑りが遅いためスロー地震と呼ばれる。揺れの周期が長いのも特徴だ。

 同じ規模の通常の地震とスロー地震を比べると、通常の地震は揺れを観測できるが、スロー地震ではまったく観測されない。例えば、半年から数年かけてマグニチュード(M)6~7に相当する量の滑りが起こるため、人が感じることはなく、被害も及ぼさない。

南海トラフ巨大地震の震源域周辺に分布

20130913-730510-1-L.jpg図220130913-730534-1-L.jpg図3 スロー地震は、東北地方沖から西南日本の広い範囲で起きていることがわかってきた。私たちが注目してきたのは西南日本で、様々な種類のスロー地震が発生している(図2)。南海トラフ巨大地震が発生する領域をとりまくように発生場所が分布しているのが特徴だ(図3)。

 スロー地震には、プレート境界の深い場所で、半年から1年かけてゆっくり滑る「長期的スロースリップイベント(SSE)」、数日から1週間の「短期的スロースリップイベント」、1秒に数回震動する「深部低周波微動」、微動より周期が長い「深部超低周波地震」、浅い場所で発生する「浅部超低周波地震」がある。

三つの現象が同期

 深部低周波微動は2002年に私たちが初めて発見した。防災科学技術研究所が阪神大震災を踏まえ、小さな地震まで観測できる高感度地震観測網(Hi―net)を全国に整備したことが背景にある。

 深部低周波微動は、東海地方から紀伊半島を経て四国まで、約600キロ・メートルの帯状に分布している。震源の深さは約30キロ・メートルで、南海トラフで巨大地震が発生すると予想される領域より深い場所に位置しており、プレートの沈み込みと関係している現象とみられた。

20130913-730546-1-L.jpg図4 その後、深部低周波微動の活発化と連動して、わずかな地殻変動が起きることがわかった。これが短期的スロースリップイベントで、押し合う力により片方の岩板がもう一方に乗り上げる「逆断層型」なのが特徴だ。深部低周波微動と短期的スロースリップイベントがほぼ同時に起きる現象は、アメリカやカナダでも見つかった。

 深部超低周波地震も逆断層型で、深さは30~40キロ・メートルのプレート境界で発生している。短期的スロースリップイベントが起きている断層面に微小な固着域があり、それが深部低周波微動や深部超低周波地震を引き起こしていると考えられている(図4)。


発生に周期性

 東海地方から紀伊半島、四国にかけての領域では、深部低周波微動や深部超低周波地震が、ほぼ規則正しく決まった場所で発生する。紀伊半島東部や四国西部では約半年間隔、四国東部や和歌山県沿岸付近では約3か月間隔だ。南海トラフ沿いでは100~150年間隔で周期的に巨大地震が発生しており、その仕組みと同じなのかも知れない。様々な領域の地震が連動して発生することがあるのも似ている。

 長期的スロースリップイベントは、四国と九州の間の豊後水道や、東海地方、房総半島付近で起きている。豊後水道ではこれまでに1997、2003、10年の3回観測され、その際、微動も活発化している。東海地方では00年後半から05年までゆっくりとした滑りが続いた。

 房総半島の付近では、過去に6回観測されている。最近は11年に発生しており、その前が07年だ。通常は6~7年間隔で発生しているが、この時は間隔が4年と短かったため話題になった。東日本大震災の影響で、プレート境界の活動が活発になったと考えられている。

巨大地震との関係に注目

 スロー地震が巨大地震に何らかの影響を与える可能性がある。その逆に、巨大地震を引き起こすエネルギーのたまっている状態が、周囲のスロー地震に影響を及ぼすことも考えられる。このため、スロー地震は世界中で注目が集まる研究分野の一つだ。

 アメリカでは、サンアンドレアス断層沿いで起きた04年のパークフィールド地震の直前に、震源域の近くで微動活動が活発化したとの報告がある。また、この微動の活動場所は、通常は南北に不規則に移動しているが、地震の起きる前の3か月間は、すべて北から南へと、震源域から離れる方向に移動していた。震源付近に力が集中したのを反映して、微動の活動範囲が変わったことを示唆している。

20130913-730560-1-L.jpg図5 東日本大震災の直前に、前震活動としてスロー地震が2回発生していたこともわかった(図5)。小さな繰り返し地震を伴いながら、その活動場所は移動した。移動先には東日本大震災の震源がある。この活動場所の移動により、東日本大震災の破壊開始点に力が伝わり、最終的に断層の破壊を活性化してしまった可能性が指摘されている。巨大地震がいつ起きてもおかしくない状態になっていて、スロー地震が最後の引き金となったのかもしれない。

 コンピューターによる模擬実験も盛んだ。長期的スロースリップイベントと短期的スロースリップイベント、巨大地震を再現した模擬実験では、巨大地震が発生する時期が近づくと、それぞれのスロースリップイベントの発生間隔が短くなる傾向があった。

 スロー地震が発見されてからまだ10年余り。今後、スロー地震と巨大地震の関係をより詳細に明らかにしていく必要がある。そのためには観測をしっかり行い、スロー地震のメカニズムを解き明かしていかねばならない。


(※図は小原教授提供)

【質疑応答】

  スロー地震は体感できるのか?

  スロー地震は揺れが非常に小さいので体感できない。地震計や傾斜計、センサーのみでとらえることができる。

  東海地震の予知の仕組みは?

  東海地震が発生する直前に、スロー地震のような「前兆滑り」が起こり、徐々に滑りが加速すると考えられており、この前兆滑りをひずみ計でとらえる。ただ、前兆滑りはあくまでもシナリオの一つで、ほかの仕組みで起きる恐れもある。

  アスペリティの固着のもとになる力は?

  まだわかっていない。プレート境界にでこぼこがあれば摩擦が大きく働く。粘土鉱物は一定の温度、圧力を超えると固まるため、その働きでプレートがくっつくという考えもある。

  海底の掘削調査でアスペリティがどうなっているのか確認できないか?

  アスペリティがどういう岩石鉱物から構成されているかがわかれば、その鉱物を使って実験して、摩擦の大きさの分析や、温度が何度になったときに固着の状況が変わるかといった研究ができる。

  (地震発生の)確率がわかりにくい。

  長期予測では何年以内に発生する確率が何%かという言い方をする。とは言うものの、地震はいつ起きてもおかしくない。

 ◇知の拠点セミナー 全国の国立大学が共同で利用する研究拠点の成果を一般向けに紹介する連続講座。毎月1回、東京・品川で開いている。日程や参加申し込みは、セミナーのホームページへ。

(2013年9月18日  読売新聞)

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