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■次回大会のテーマに関するご提案

各 位

永瀬宗彦

(2005年修士課程修了)

 

次回大会のテーマに関するご提案

 

3.11の大震災以降、人間と科学技術との関係を洗い直す試みが、様々な分野で盛んに議論されています。私自身もこのことを問題意識の一つに据え、哲学に限らず、地震、原子力、リスク管理などの分野を横断して書籍を読んでおります。そういった中、東京大学の哲学会による年報『情報とリスク - ポスト311の哲学』(201310)を読む機会がありました。これは、大震災以降のとりわけ情報と哲学との関係性を考える諸論文で構成されています。内容に関しては皆様が各々で評価していただければいいと思いますが、大震災によって生じたアポリアへの哲学研究者からの応答といった側面で、意義のある試みだと思いました。

地震や津波、原子力災害という自然科学分野の事象、あるいは情報技術、リスク管理という実務的な事柄に対して、いったい哲学に何ができるというのか?そういった懐疑は当然あると思います。しかし同誌によると、驚くべきことに、世間は哲学へ期待しています。

 

興味深いことは、こうした災害というのは、きわめて現実的な復旧、復興、収束こそが第一問題であって、哲学が顔を出す場面ではないと一見思われたにもかかわらず、事故後すぐに、哲学や倫理のサイドからの発言が求められたことであった。」

前掲書P149「「情報とリスクの哲学」報告」一ノ瀬正樹

 

つまり、今回の大震災のあまりの事態に、従来の発想だけでは整理できず、収拾がつかなくなっており、そこに何らかの哲学の出番がある、ということではないでしょうか。

さて一方、当哲学会の会誌を眺めてみると、3.11以降も震災に端を発した論文は見当たりませんでした。積み重ねてきた研究成果を発表する、定期的な刊行物という性質を前提すれば、確かにこれは正しい結果だとも思います。また、世間の動向にいたずらに振り回されていては良い研究が出来ない、という意見も一考に価すると思います。

しかしながら、1755年のリスボン地震/津波の惨禍(※)によって、当時これを聞いたヴォルテール、ルソー、カントといった名立たる思想家が、直接的・間接的に強い影響を受け、その思想が突き動かされた事実は、皆様もご存知の通りです。そしてその議論の軸は、災害を機に、社会階層の別なく、広い範囲の人々に湧き上がった、当時の宗教への強い不信・疑念でした。そういった人々の強い感情、および知的要求に対して、上記の思想家達が哲学によって応答をしたという構図がここに見て取れます。

現代の日本におけるマグニチュード9.0の地震は、宗教信仰に代わって科学信仰が頒布している中で起こり、地震・津波の被害だけに留まらず、科学技術によって支えられた原子力災害を引き起こした点で、リスボン震災との違いが際立っています。つまり、未だに哲学からの応答を得ていない事象なのだと言えます。従ってここに、いわば歴史的に位置づけられた、誰かが負わなければならない応答の責務があるのです。

東日本大震災によって日本人に湧き上がった感情とはいったい何だったのでしょうか。そして人々はいったい哲学にどういった知的営為を求めているのでしょうか。今ここで事例を挙げると言葉に縛られてしまうので敢えて伏せますが、多少の労を取っても、これをじっくりと吟味し、丁寧に応答することによって、感情を宥め、知的欲求が満たされると共に、大震災前・後の思想的転換を明確にできるでしょう。それによって、本哲学会の存在意義、ひいては日本における哲学研究の存在意義を、また一つ見出すことになるかもしれません。

そこで、次回の本哲学会の大会、もしくは、せっかくなので特別の機会を作るなりして、大震災前・後の諸問題をテーマに取り上げ、その議論をまとめることを、ここに提案致します。何卒、前向きにご検討頂きますよう、お願い申し上げます。

 

※1:1755111日、日曜日940分、時あたかも諸聖人の日であり、敬虔なカトリック信者が教会で礼拝をしているさなか、ポルトガルのサン・ヴィセンテ岬の西南西約200kmの大西洋沖を震源とした、マグニチュード8.59.0と推定される地震が発生した。揺れは3分~6分の間続き、震源に近かったリスボンでは建築物が次々と倒壊し、屋内にいた礼拝者を含む多くが圧死した。その約40分後、515メートルの津波が海岸線を数回にわたって襲い、テージョ川を遡り、リスボンの市街地の4分の1を呑み込んだ。津波の難から逃れた地域では火の手が上がり、ほとんど全ての市街地を焼き尽くした。それまで交易の要衝としてパリやロンドンよりも繁栄していたリスボンが、一日で灰燼に帰した。275千いたとされる市民うち、4万人~6万人が犠牲になった。これは欧州史上類例を見ない、あまりに無残な大災害であり、楽観論が大勢を占めていた当時の思想からは説明し得ない出来事であった。そのため、ヨーロッパの思想界は大きな衝撃を受け、その            組み替えを余儀なくされた。

 

参考文献:

1.『情報とリスク - ポスト3.11の哲学 -』哲学会編 有斐閣

確率論の哲学(加藤尚武)

ささやかながら,情報について(米山優)

出来事(事象)としての人生──ドゥルーズ『意味の論理学』における(小泉義之)

被害・リスク・予防,そして合理性(一ノ瀬正樹)

リスク「0」と確率「1」のあいだ──ヒューリスティックス,最小合理性,具体的合理性(乗立雄輝)

経験しえないものの疫学──東京電力福島第一原子力発電所事故とリスクテクノロジー(石原孝二)

大会シンポジウム報告情報とリスクの哲学(一ノ瀬正樹)

 

2.”The Lisbon Earthquake” in New England Review Vol. 26, No. 3  Voltaire / William F. Fleming , 2005 Published by Middlebury College Publications

3.”Great Lisbon Earthquake of 1755”in “The Illustrated History of Natural Disasters”Kozák, Jan, Cermák, Vladimir 2010 Published by Springer Netherlands.

4.”The Lisbon Earthquake of 1755: Representations and Reactions” Braun, Theodore E. D., and John B. Radner, eds. 2005 published by Voltaire Foundation.

5.『カント全集1 前批判期論集I』カント/大橋容一郎,松山壽一訳 岩波書店

地震原因論

地震の歴史と博物誌

地震再考

6.『カント全集8 判断力批判()』カント/牧野英二訳 岩波書店

7.『創立四十周年記念論文集』「リスボンの震災について ルソーとヴォルテール」永田英一 九州大学文学部

8.『カンディード』ヴォルテール/植田祐次訳 岩波書店(文庫)

 

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永瀬宗彦 - Nagase Munehiko

Author:永瀬宗彦 - Nagase Munehiko

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