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■鶴見線と京浜工業地帯(4)

国道駅でうろついていた時に、たまたま駅員がいたので次の電車の時間を聞いていた。目的地の海芝浦行きは一時間後。扇町行きが30分後だった。よく覚えているものだと感心したが、仕事とはそういうものだとも思った。

その到着の10分ほど前には駅まで戻った。すでに駅員の姿はなかった。どこに行ったのかは分からない。そこで改札を素通りして長い階段を上り、ホームのベンチに座りながら次の列車を待った。同じホームには中年の男性が二人いて、退屈そうに時間を潰していた。一人はホームの端に行き、なにやら高架下を眺めていた。一人は雑誌を読んでいた。列車はほどなく車体を傾けながらゆっくりと入線した。

この奇妙な旅の大きな目的のひとつは工業地帯を見ることだった。国道から鶴見小野までの区間は主に住宅だったので、落ち着いて座っていられた。しかしその先から次第に住宅の姿は無くなっていき、長くて高い塀、四角い大きな構造物が目立ちだした。工場群だ。視線が右に左に忙しく行き来しだした。

浅野駅は海芝浦支線が分岐する地点のため、線路と駅が三叉している珍しい駅だった。周りはすべて生活感の無い、非日常的な工業地帯の風景になっていた。乗っていた列車を見送って、時刻表を確認し、次の海芝浦行きが来るまでまた辺りを散策することにした。改札は無いため、気楽に出入りできた。あたかも田舎のローカル線の駅のようだった。

工業地帯と聞けば灰色の印象だと思う。しかしこの季節は線路にも草が生えているし、工場の敷地内も恐らく意識的に緑地化されている。しかもあまり手入れされていないせいで、むしろ鬱蒼とした森のようになって、敷地を侵食しているようだった。列車が過ぎると騒音も無く静かで、人里はなれた自然豊かな土地と言えないこともなかった。

線路を渡るとすぐいくつかの町工場が見えた。ひとつは特に古臭い建物だが、誰か物好きが買い取って洗練された意匠の新しいアクセサリーを施していた。電灯、梯子、螺旋階段、シルバーメタルのクラッシックカー、同じく銀色の列車の車両。確かに、古い建物は耐震強度に対する考え方が緩いため、窓が大きく開放的で、センスが良いものがある。工場のような構造物にもそういう場合がある。いい目の付け所だが、誰が何のためにこんなところでこんなことをしているか、聞く術は無かった。辺りに住んでいそうな人はいないのだ。

駅に戻ると雀が沢山いることに気づいた。声のするほうを見上げると、ホームの屋根の下に巣を作っていた。それらは身を寄せ合うように密集していた。カメラを向けて写真を撮ろうとしたが、どうしたことかみんな巣の中にもぐって顔を隠してしまった。不思議に思ったが、すぐ理由が分かった。列車が大きな音を立てて到着したのだ。これに乗って海芝浦へ向かった。

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永瀬宗彦 - Nagase Munehiko

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